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ECのLTVを計算する際の課題と解決策。コホートLTV分析とは?
ECのLTVを計算する際の課題と解決策。コホートLTV分析とは?

ECのLTVを計算する際の課題と解決策。コホートLTV分析とは?

Updated At:
Jan 3, 2024

はじめに

ECの成長においてLTVは非常に重要なKPIですが、一般的な計算方法では実務上課題があります。コホートによるLTV分析は実務上の課題を解決する、実践的で有効な手法です。この記事はLTV向上に取り組むECマーケティング担当者の方にむけて、コホートLTV分析の考え方や具体例について解説します。

そもそもLTVとは?

LTV(Life Time Value)は顧客生涯価値と訳され、CLV(Customer Lifetime Value)とも呼ばれます。顧客が生涯にわたって企業にもたらす平均的な総利益を意味します。LTVは、各顧客がブランドにとってどの程度価値があるかを測定することができます。

この数値はマーケティングKPIではなく企業の経営指標と捉えることが適切で、部門横断的に活用することができます。たとえば広告投資を調整したり、リピート購入の増加に取り組んだり、商品の原価率を最適化したり、といった活動の指標となります。

この記事は、LTVの概念を理解されている方に向けて作成しています。

LTVについては下記の記事で基本的な考え方を解説していますので、あわせてご参考ください。

ECでLTVを計測する難しさ

一般的なLTVの計算方法

たとえばECプラットフォームを運営するShopifyのブログで提唱されているアプローチが、一般的なLTV計算方法として良い例です。ShopifyはLTVを推定するために、下記のような定義に従った方法を提案しています。

LTV = 平均注文金額×購入頻度×平均寿命

・平均注文額:平均的な顧客の注文金額

・購入頻度:平均的な顧客の注文頻度

・平均寿命:平均的な顧客が注文を継続する期間

参考記事:https://www.shopify.com/blog/customer-lifetime-value

たとえば平均注文金額が5,000円で、顧客が年に2回ストアで注文し、顧客が平均5年ほど購買を継続するとします。

このとき、LTVは5,000円×2×5=50,000円と簡単に計算できます。

この計算式はとても明快で分かりやすい反面、いざ実際のECストアにあてはめて実践しようとする疑問が生まれます。たとえば顧客寿命はどのように予測すればよいのでしょうか?

一般的なLTVの計算方法の課題

結論としては、厳密な定義ではLTVを測定することは不可能に近いです。なぜならLTVの定義に従えば、将来のすべての注文の正確な日付と金額を予測できている必要があるからです。

もちろん学術的には将来の取引や顧客寿命を推定し、正確な LTV 推定値を算出すると主張する様々なアプローチが提案されていますが、現時点では信頼性のある手法がないのが実情です。

これらのアプローチが不十分な理由をまとめると「実用性」と「信頼性」の不足です。

信頼性の観点での難しさ

さきほどのShopifyが掲載している手法では、LTV数値の精度は顧客寿命を正確に推定できるかどうかに依存していますが、一般的なECストアの場合はそれは困難です。

ECビジネスの場合、ある顧客の寿命が”終わった”と判断するのは難しいです。例えば、数か月間も音沙汰がなかった顧客が、何かのメールキャンペーンで戻ってきたり、逆に1ヶ月間何度も購入をしてくれていた顧客が翌月以降にはまったく購入しなくなったりなど、ECマーケティング担当者であればよく目にするケースなのではないかと思います。

Shopifyは、平均寿命がわからない場合は3年を使用するよう勧めていますが、これは取り扱う商材や業種間の違いを考慮していない数値です。本当の平均寿命が1.5年だった場合、定義に従えば実際のLTVは半分になってしまいます。このような不確実な予測に基づく数値を、ビジネスのKPIとするのは非合理的で実践的ではないと言えるでしょう。

実用性の観点での難しさ

仮に何らかの形で信頼性のある LTV を正確に計算できたとします。では、そのLTVはビジネスの意思決定やマーケティング活動に有効に活用できる数字でしょうか?

ビジネスの意思決定

たとえば将来のキャッシュフローの予測と顧客獲得コストの決定に役立つかどうかを考えてみます。

平均LTVが10万円と算出できたとして、その10万円がいつ・どのようにキャッシュフローとして実現するのかはわかりません。たとえば下記の2つの例を区別できません。

  • LTVのほとんどが最初の1回の注文で提供され、その後の積み上げは少ない傾向にある。
  • 顧客は最初に数千円の割引商品を購入してから、長期間にわたって徐々に価格の高い商品を注文する傾向にある。

生涯にわたって"顧客価値"がどのように分布するかを把握しない限り、将来のキャッシュフローを見積もることも、顧客獲得コスト (CAC) がいつ破綻するかも見積もることができないのです。

マーケティング活動

たとえばベビー・キッズ用品のECストアで、平均LTVが10万円と算出できたとします。ただし、このストアでは2-3万円程度のおもちゃをメインに購入する顧客と、数千円のおむつなどの消耗品を中心に購入する顧客セグメントに大きく分かれるとします。

これらの顧客セグメントは、平均注文金額も、購入頻度も異なります。顧客寿命に関しても同様です。おもちゃはある程度子どもが大きくなるまで継続的に購入してくれるかもしれませんが、おむつを購入している顧客は数か月~長くても数年で顧客寿命が尽きるでしょう。

顧客のニーズや購買目的ごとにLTVの数値も異なると考えるのが自然です。ですので、多くのケースでECストア全体での平均LTV自体に実践的な意味はなく、顧客セグメント単位でLTVを把握しないと、LTVを向上させるための具体的なマーケティング施策に落とし込むことができません。

ECのLTVに関する正しい考え方

ポイントは「自分の顧客全体の平均 LTV はいくらか?」が、マーケティング実務上は間違った問いである、ということです。より良い問いは、たとえば次のようなものです。

「最初の注文から 3 か月後の平均的な顧客価値(3か月LTV)はいくらか?6か月、9か月、12か月、24か月のLTVはどうか?」

平均的なLTVの総額が、時間軸でどのように分布しているかを知ることで、顧客獲得コストに対する収益や、月ごとのキャッシュフローを予測できます。これは新規顧客を獲得するためにいくら投資すべきか、今後の予算をどのように管理するかという決定に役立ちます。

「1年前の平均的な顧客は、最近の顧客と比較して、最初の注文から3か月後、6か月後のLTVはどのように異なるか?」

最初の注文からNヶ月のLTVを、初回購入の時期別で比較をすることで、”LTVが向上しているかどうか”を実績値に基づいて明確に判断することができるようになります。さらに、時間の経過で生じる顧客行動の違いを発見することもできます。

「LTV は集客経路間でどんな違いがあるか?購入商品の種類や、国・地域などの属性ではどうか?」

顧客セグメントごとにLTVを把握することで、全体としてのLTVを向上するためにどのセグメントに注力すればよいのかを判断することができます。各セグメントで購入頻度や平均注文金額が分かれば、セグメントの特徴に基づいてどのような施策を講じればよいかの検討を行うことができます。つまり、セグメンテーションによってデータがより実用的になるということです。

コホート分析によるLTVの計算

今まで指摘した課題を解決するLTVの計算方法が、コホート分析アプローチです。ここからは、コホート分析とは何か、なぜそれが信頼性と実用性に優れるのか、さらに洗練したアプローチを行うにはどうしたらよかを解説します。

コホート分析とは

コホート分析は、顧客を「コホート」というグループに分割し、各コホートの行動を時系列的に測定することにより、過去の注文データから実用的な示唆を得る手法です。

コホートでLTVを計算・分析する際は、顧客を初回購入時期(多くのケースでは「月」)に基づいてセグメント化し、1ヶ月、2ヶ月、….、Nヶ月目時点のLTV(顧客1人あたりの合計売上高)を計算します。

たとえばこちらは、あるストアの6か月間のShopifyのデータをもとにExcelで作成された簡単なコホート分析です。

まず、2023年1月のコホートに注目しましょう。行を横に見ていきます。

初回購入金額の平均値は 5,770円でした。列4は最初の購入から1ヶ月経過までの(0ヶ月目の)平均LTVを示しています。ですので、初回購入に限らず1ヶ月以内の再購入を含むすべての売上が考慮されています。

同様に列5は1ヶ月以降~2ヶ月経過までのすべての売上を考慮した平均値を示しています。

最後の列は5ヶ月目のLTV(6か月経過までのLTV)です。13,215円という数字は、コホートの属する顧客による6ヶ月経過までの総売上高を、コホートの顧客数3000人で割った数字になります。

同じ計算処理が他のすべてのコホートに適用されていますが、最初の注文から現在までの経過月数が少ないので、新しいコホートごとに列が 1 つ少なくなります。

こちらの記事で、ECカートShopifyのデータを使って、Excel/スプレッドシートでコホートLTV分析を行う方法について解説しています。あわせてご確認ください。

より詳細な分析に進む前に、コホート分析の信頼性と実用性について確認してみます。

コホート分析の信頼性

コホート分析では、将来について何の仮定もしておらず、過去および現在の正確な顧客行動データのみに基づきます。過去の顧客の行動のみに基づいて意思決定を行うことには注意点もありますが、将来の不確実な予測を含む信頼性のない指標に依存するよりは、はるかに望ましい方法です。

コホート分析の実用性

「2ヶ月LTV」「3ヶ月LTV」というように、全体のLTVが時間軸にわたってどのように実現していくかが分かるようになったので、実際のビジネス判断に活用できるようになります。

たとえば、コホートLTV分析を使用すると、リピート購入の大部分が行われたタイミング(Nヶ月LTVが跳ね上がっている時期)や、大半の顧客の顧客寿命が尽きたタイミング(LTVが横ばいになり始めた時期)がわかります。

さらに、それぞれのコホートの月における顧客獲得コストがわかれば、顧客獲得コストとLTVが均衡するまでにかかった時間を判断できるようになります。さらに他の月のコホートと比較することで、その月のデータが外れ値かどうか、現在の顧客は過去の顧客と比べてLTVの伸びがどう変わっているか、などの傾向が判断できます。

コホート分析をさらに洗練させるには

次の課題は「最も収益性の高い顧客を特定し、高い顧客LTVが実現する要因をどのように見つければよいか」で、ここで重要になるのが顧客セグメンテーションなのです。

顧客セグメンテーションの全体像はこちらの記事で解説しています:

顧客セグメントに対するコホート分析

顧客セグメント作成は最初に購入した商品や、どのような商品を多く購入しているか、集客チャネル、属性、使用したクーポンコードなど、顧客属性や行動に関するすべての指標が候補になります。

例として2つのLTVコホートを挙げます。上の表は初回購入商品がAで、下の表は商品Bの顧客に関するものです。

いくつかのデータポイントを比較してみましょう。

商品Bは、商品Aと比べて最初の注文の売上は小さいですが、LTVが毎月増加しています。

3 か月LTVで比較をすると、商品Bが7,500~9,500円であるのに対し、商品Aは6,000~7,500円ほどです。初回購入商品Aのセグメントは、4ヶ月目以降はほとんど頭打ちになっているようです。

このデータは、商品Bが最初に購入された場合、短期的には売上が小さいですが、長期的にはより高い売上に繋がることを示唆しています。

ただし、商品ラインナップから商品Aを削除する必要があるという解釈にはなりません。この結果が示しているのは、マーケティングリソースの配分を行う際に、商品Aにより集中させるとキャッシュ回収を迅速に行うことができること

一方で、商品Bにより集中させると、中長期的により大きな投資収益率になる可能性が高くなるということです。

たとえば中長期的な投資収益率を高めたいのであれば、より多くの広告で商品Bを取り上げ、初回購入につなげたり、商品Bを購入していない顧客にメールによるプロモーションを行うなどの施策が考えられます。

まとめ

この記事では、一般的なLTVの計算方法には信頼性や実用性の観点から課題があることを指摘して、コホートLTV分析の手法についてご紹介しました。

時系列的にLTVを追跡し、複数の顧客セグメント間にわたってコホート分析を行うことによって、短期的および長期的により高いROIで意思決定を行うことができるようになります。

ぜひ、ご活用いただけたらと思います。

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Author
ECPower プロダクトマネージャー

この記事は顧客セグメント管理・ジャーニーインサイト"ECPower"のプロダクトマネージャーが執筆・監修しました。記事の内容はShopifyをはじめとしたEC事業者向けのLTVグロースやCRM支援、データ分析の知見や実績に基づきます。

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