はじめに
ECの顧客セグメンテーション手法の1つ「RFMセグメンテーション」は、LTV向上に重要な役割を果たします。この記事はLTV向上に取り組むECマーケティング担当者の方にむけて、RFMセグメンテーションまたはRFM分析の重要性やよく使われるフレームワークについて解説します。
ECにおける顧客セグメンテーションとは?
ECにおける顧客セグメンテーションとは、顧客を特徴や行動に基づいてカテゴリー分けすることです。顧客セグメンテーションの主なタイプには、属性セグメント(年齢や性別)、心理的セグメント、地理的セグメント(居住国・居住地)、行動セグメント(購買履歴やサイトでの行動など)があります。
顧客セグメンテーションにより、顧客のタイプ別のニーズや購買目的、購買傾向を理解することができ、顧客解像度を高めて効果的なマーケティング施策を実施することができるようになります。
顧客セグメンテーションの全体像はこちらの記事で解説しています:
RFMセグメンテーションの概要と重要性
この記事でご紹介するRFM分析(またはRFMセグメンテーション)は、「行動セグメンテーション」の一種です。2005年頃よりマーケティングの専門誌や学術誌で提唱されている比較的歴史のある分析手法で、現在までに学術的にも様々な派生理論が提案されています。マーケティング実務の世界においてもかなり一般化してきているフレームワークで、一度は耳にされたことがある方が多いのではないかと思います。
RFM分析は顧客の購買行動を、Recency(直近の購入からの経過日)、Frequency(購入回数)、Monetary(合計購入金額)という3つの主要要素に分解します。これらの頭文字を取ってRFMという呼称が広く使われています。
顧客をRFMの観点で点数付けしてセグメンテーションを行うことで、各セグメントの購買行動に即したマーケティング施策を打つことができるようになります。これにより、例えばリピート率の向上、エンゲージメントやコンバージョン率の向上などが期待でき、顧客生涯価値(LTV)を高めることに繋がるためとても重要な考え方です。
RFMのスコアリングの基本的な考え方
RFM分析ではRecency、Frequency、Monetaryそれぞれの観点で、各顧客にスコアを割り当てます。スコアは1~3または1~5の値で、数字が大きいほどより良いという意味になります。
このスコアリングには様々な手法が提案されていますが、まずは最も簡単な「スコアの閾値を自分で決める方法」を例に挙げて説明をします。
Recency
まず、すべての顧客について、直近の購入日から現在の日付までの日数を計算します。そのうえで各顧客に対して、たとえば下記のように1から5のスコアを割り当てます。
1:91〜365日(最後の購入から長い時間が経過している)
2:61〜90日
3:31〜60日
4:8〜30日
5:0〜7日(直近の購入日が近い)
もちろん、どの日数が自社にとって”直近だ”と感じるかはそれぞれです。このスコアリング方法では、ECマーケターが自分の経験から閾値を決める必要があります。
Frequency
各顧客の合計購入回数を計算します。そのうえで各顧客に対して、たとえば下記のように1から5のスコアを割り当てます。
1:購入回数1回(最も回数が少ない)
2:2回
3:3回
4:4回
5:5回以上(最も購入回数が高い)
どの回数が自社にとって多い(点数が高い)と感じるかはそれぞれです。例えばリピート率が非常に高いストアであれば、5点をつけるのは10回以上が適切と判断されるかもしれません。
ちなみに、Frequency(つまり頻度)なのに合計購入回数なのか?と疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。ごもっともな指摘ではありますが、慣用的には購入回数を用いて分析を行うことが多いです。
Monetary
各顧客の合計購入金額を計算します。そのうえで各顧客に対して、たとえば下記のように1から5のスコアを割り当てます。
1:〜10,000円(最も金額が低い)
2:10,001円〜30,000円
3:30,001円〜50,000円
4:50,001円〜100,000円
5:100,001円以上(最も金額が多い)
例によって、どの金額が自社にとって多いと感じるかは商材の単価などにより異なるでしょう。実態に合わせて閾値を変更してください。
RFMスコアを割り当てることができたら、そのスコアを使って顧客セグメントを作成することができます。たとえば「Frequencyが3点以上、Monetaryが5点、Recencyが2~4点の顧客」というような形で様々なセグメンテーションができます。このあとのセクションで、一般的によく使われるセグメント方法について解説します。
こちらの記事で、ECカートShopifyのデータをExcel・スプレッドシートでRFM分析する方法を解説しています。あわせてご確認ください。
様々なスコアリング手法
補足的に他のスコアリング手法についても触れておきます。
現在までに様々なスコアリングのアプローチが提案されていて、実践的で実務向きな手法もあれば、専門的なアプローチを要するものもあります。たとえば、自分で閾値を決める方法のほかに、パーセンタイルベースのアプローチや数理統計を活用した手法などがあります。
いわゆる「正解」はなく、それぞれに利点と欠点があります。
パーセンタイルベースのアプローチでは、すべての顧客の「直近の購入からの経過日数」「合計金額」「合計購入回数」を、それぞれ四分位点や五分位点などのパーセンタイルに顧客を分けます。
もしかすると、パーセンタイルや五分位点という言葉は聞き馴染みがないかもしれません。これは簡単に言うと、10人の顧客リストがあったときに、顧客を合計購入金額が多い順に並び替えて、上から2人ずつ5点、4点、…と点数付けをしていく方法と理解して頂いて構いません。
この方法は比較的簡単に実施することができます。ただ、現在の顧客を単純に5分割するだけなので、ビジネス面での実態からかけ離れた点数付けになってしまう可能性があります。
例えばあなたのECストアの顧客リストの中に、3年前のキャンペーンで1回だけ購入した顧客がたくさん(全体の40%ほど)いたとします。この場合Recencyの1点と2点は3年以上前に最後の購入をした顧客で占められることになります。このため、たとえば5点と言えないような日数の人も5点にスコアリングされてしまったりなど、スコアリングが最近のビジネスの実態を反映しなくなる可能性が高くなってしまいます。
これ以外にも、標準偏差などを活用する統計的手法も提案されています。より厳密なRFMスコアリングのアプローチを行うことができますが、この記事の趣旨からは外れてしまいますので割愛します。
実務上何よりも大切なのは、精度よくスコアリングをすることではなく、スコアリングした結果をいかにマーケティング施策に落とし込むかです。
まずはRとFの簡単なクロス分析から始めてみましょう
もしまだRFMセグメンテーションを実施したことがない場合は、まずRとFの二軸分析から始めてみましょう。というのも、合計購入回数(Frequency)と合計購入金額(Monetary)はほとんどのケースで相関性が高いので、RとFだけでも充分に実務的な示唆を得られることが多いからです。
(この想定が当てはまらないのは、商品ラインナップが多いECストアや、単価が大きく異なる商品を扱っているECストアです)
RecencyとFrequencyの二軸分析
RecencyとFrequencyをスコアリングしたら、まずは顧客の人数を縦横に取って簡単なクロス表を作成してみましょう。下記はその一例です。(簡易化のため、1~3点で作成しています。)
この表のそれぞれのエリアが、最も単純な「RFMセグメント」になります。それぞれのセグメントに対して、たとえば下記のような施策を考えることができます。
Recency3点×Frequency1点(緑色)
直近購入を行っているアクティブな新規顧客です。アクティブなうちに、リピート購入を促し、ロイヤルティを高めるために、たとえば以下のような施策が考えられます。
- 割引や特典などのインセンティブを提供して、2回目以降のリピート購入を促す。
- 特定のニーズや興味に焦点を当てたターゲットマーケティングキャンペーンを作成する。
Recency1点×Frequency3点(青色)
これらの顧客は過去に何度も購入をしており、これまでにECストアの収益に大きく貢献している顧客ですが、一定期間購入がなく現在離脱リスクのある顧客です。たとえば以下のような施策が考えられます。
- パーソナライズされたメッセージを送り、離脱せずに戻ってきてもらうよう促す。
- 顧客が多く購入している商品に基づいて、新商品のプロモーションを行ったり、限定のクーポンを送付する
このように、まずはRecencyとFrequencyの2つの軸で分析を行うことで顧客セグメントを作成し、ターゲットを絞ったマーケティング施策を行うことができるようになります。
慣用的なRFMセグメントの種類と打つべき施策の例
最後に(主に英語圏で)慣用的に用いられている、より詳細なRFMセグメントの種類と、それぞれに対する施策例をご紹介します。ここまで細かくセグメント分けする必要性があるかはストアの規模にもよりますが、ご参考までに紹介しています。
[1]チャンピオン(Champion)
チャンピオンは、RFMスコアが高い最高の顧客です。ロイヤリティを維持するための施策を講じましょう。
- ロイヤル顧客の限定商品を提案したり、特典を提供する。
- ブランドの口コミレビューや周囲の人に対する紹介を依頼する。
- 新製品の先行アクセスを提供するなど特別感を醸成する
[2] ロイヤルカスタマー(Loyal Customer)
これらの顧客は、頻度と金額スコアが高い顧客です。チャンピオンと同様に、ロイヤリティを維持する施策が重要です。
- 普段購入しているよりも高い商品をアップセルする。
- 普段購入している商品と補完的な商品をクロスセルする。
- ブランドの口コミレビューや周囲の人に対する紹介を依頼する。
- パーソナライズされたメッセージを送り、エンゲージメントを高める。
参考記事
[3]有望な顧客(Promising)
中程度の購入回数を示しているアクティブな顧客は、将来ロイヤルカスタマーになってくれるポテンシャルがありますが、一方で注意も必要です。以下のような施策が考えられます。
- サブスクリプションサービスやロイヤルティプログラムへの加入を提案する。
- ストア上でのチャットや、パーソナライズされたコミュニケーションを行って、ECブランドとの関係性をより強固にする。
参考記事
[4]アクティブな新規顧客(New Customer)
新規顧客は最近初めての購入を行った人たちです。以下のような施策で歓迎し、リピート購入を促しましょう。
- 初回購入商品と関連する商品や、補完的な商品をおすすめする
- クーポンなどの次回購入インセンティブを提供する
[5]要注意顧客(Need Attention)
中程度のFrequency, Recencyの顧客です。もう少しでロイヤルカスタマーに育ってくれるはずだったが、あと一歩の後押しが足りていないために、直近の購入から時間が経ってしまった顧客です。ブランドのファンになってもらうために背中を押すような施策が考えられます。
- 積極的なサポートや有益なコンテンツを提供したり、もしくはブランドに込められた想いや開発秘話などのストーリーを発信することで、ブランドに対する共感・エンゲージメントを獲得する
- ニーズを把握し、ロイヤル顧客になってもらうために不足している要素が何かを分析する
[6]ホットリード(Warm Leads)
ホットリードは最初の購入をしてから程よい期間が経っていて、次回購入の見込みがあるが、まだリピート購入に繋がっていない顧客です。彼らにリピート購入をしてもらうために、適切なタイミングで以下のような施策を行うことが考えられます。
- 期間限定のオファーを提供して迅速なリピート購入を促す。
- クーポンなどの次回購入インセンティブを提供する
[7]コールドリード(Cold Leads)
コールドリードは最初の購入をしてから一定期間以上経過してしまい、おそらくブランドへの興味を失ってしまった可能性がある顧客です。興味を再燃させるために以下のようなアプローチを取ってみましょう。
- 初回購入商品に関連した新商品をプロモーションする
- 初回購入商品とは異なる角度から新鮮なアピールを行う
[8]失なってはいけない顧客(Can’t Lose Them)
購入回数が非常に多い顧客ですが、直近購入日から一定以上の時間が経過してしまっています。特定の商品カテゴリに確実なニーズを持っている顧客であるからこそ、たとえば競合他社の商品に魅力を感じていたり、すでに乗り換えを検討している可能性が高いと言えます。
こうした顧客を取り戻すためには、以下のことが必要です。
- 特別なクーポンを送ったり、魅力的な限定商品を提案する。
- 競合他社を意識した内容で、改めて自社商品のプロモーションやメッセージングを行う。
- メールだけでなく、LINEなどを活用して1to1に近いコミュニケーションを図る。
参考記事
[9]休眠顧客(Sleeping/Hibernating)
過去に一定のリピート回数があるが、現在は長期間購入がない顧客です。戻ってきてもらうために、たとえば以下のような施策が考えられます。
- 購買履歴や属性などを踏まえたパーソナライズされたメッセージを送る
[10]離脱顧客(Lost)
低いRFMスコアの離脱顧客は、現在ブランドにほとんど興味を示しておらず、ロイヤル顧客に育つ見込みも薄い顧客です。マーケテイング担当者としてこのセグメントに注力する優先度は限りなく低いでしょう。
まとめ
RFMセグメンテーションは、ECマーケターが顧客をよりよく理解し、ターゲットを絞ったマーケティング施策を行うための強力なツールです。
世の中的には様々な手法が提案されていますが、完璧なRFMセグメントを作ることが目的にならないように注意してください。購買行動の観点から、適切な顧客に・適切なタイミングで・適切な施策を講じるということが一番の目的です。
実務的な観点から自社に適したセグメンテーション方法を検討して、マーケテイング施策に取り入れて頂ければと思います。
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