「今月の新規獲得数はどうですか?」
多くの企業のマーケティング会議で、このような質問が飛び交います。新規顧客の獲得数や全体の顧客数にばかり注目が集まり、既存顧客のリピート率については後回しにされがちです。
しかし、本当に重要なのは新規顧客の獲得なのでしょうか?
実際のデータを見ると、驚くべき事実が明らかになります。多くの企業で新規顧客の獲得コストが年々上昇し、一方で既存顧客のリピート率を向上させることで、より効率的に売上を伸ばしている成功企業が存在します。
確かに新規顧客の獲得は重要です。しかし、新規顧客を永遠に獲得し続けることはできません。市場には限界があり、競合も存在します。新規獲得にばかり注力していると、既存顧客の離反を見過ごしてしまうリスクがあります。
でも本当に大事なのはリピートです。1回目の購入をした顧客を2回目、3回目と継続してもらうことが、企業が売上を安定的に伸ばしていくためには不可欠なのです。
この記事では、リピート顧客獲得の鍵となる「F2転換」について詳しく解説します。新規獲得に偏重せず、1回目の購入をした顧客を2回目、3回目と継続してもらうための具体的な方法をお伝えします。
なぜF2転換率が大切なのか
1回目の購入と2回目の購入の間には大きな隔たりがあります。これは多くの企業が直面している現実です。データを見れば一目瞭然ですが、F1からF2への転換率は決して高くありません。
この隔たりは、顧客の心理的な変化と密接に関わっています。1回目の購入は「試してみる」という気持ちで行われますが、2回目の購入は「継続的に利用する」という意思決定が必要になります。この心理的なハードルが、F1からF2への転換を困難にしているのです。
しかし、2回目を買ったら、3回目、4回目...と続きやすい傾向があります。これは「継続の法則」と呼ばれる現象で、一度習慣化された行動は継続しやすくなるという人間の心理的特性によるものです。つまり、2回目の購入ができれば、その後の継続率は格段に上がるのです。だからF2転換率を上げることが最重要なのです。
これは「F2転換」と呼ばれるマーケティング用語で、「F」はフリークエンシー(頻度)の略です。新規顧客(F1顧客)が2回目の購入をすることを指し、LTV(顧客生涯価値)を増加させる上で最も重要なステップとされています。
F2転換の重要性は、単なる理論ではありません。実際のビジネスにおいて、F2転換率の向上は売上の持続的な成長に直結します。新規顧客の獲得コストが年々上昇する中、既存顧客のリピート率を向上させることは、より効率的で持続可能な成長戦略なのです。
データが示す現実
サブスクリプションサービスでは、以下のデータが明らかになっています:
- 30日以内に60%、60日以内に90%がF2転換する
- 60日を過ぎるとF2転換率は極めて低くなる
これらの数値が示すように、タイミングがすべてです。60日以内にF2転換をしなかった層は、その後にF2転換をし、継続顧客になる可能性は極めて低くなります。
このデータは、顧客の行動パターンと記憶の特性を如実に表しています。購入直後は商品やサービスに対する関心が高く、継続利用の意思も強い状態にあります。しかし、時間が経つにつれて関心は薄れ、記憶も曖昧になっていきます。
つまり、30日、60日以内にF2転換をしてもらうための適切なコミュニケーションが重要になります。この時間軸を意識することが、リピート顧客獲得の鍵なのです。
特に重要なのは、この時間軸を「待つ」のではなく、「積極的に働きかける」ことです。顧客が自然に2回目の購入をしてくれるのを待っているだけでは、多くの機会を逃してしまいます。適切なタイミングで、適切な内容のコミュニケーションを送ることが、F2転換率向上の秘訣なのです。
よくある間違い・勘違い
「商品の質が悪いからリピートしない」と思いがちですが、実際は「忘れている」だけのことが多いです。商品・サービスに対する満足度が高いなら、問題は質ではなく記憶なのです。
この勘違いは、多くの企業が陥りがちな罠です。リピート率が低いと、つい商品の品質やサービス内容に問題があるのではないかと考えてしまいます。しかし、実際のデータを見ると、満足度が高い顧客でも、適切なコミュニケーションがなければ2回目の購入に至らないケースが多く見られます。
人は忘れる生き物で、1時間で50%以上、1日後には70%以上の情報を忘れてしまいます。これは「昨日のランチに何を食べましたか?」と聞かれれば、多くの人がすぐに答えられるでしょう。しかし、「先週の水曜日のランチは?」と聞かれると、ほとんどの人がすぐには思い出せないはずです。
この記憶の特性は、商品・サービスの購入にも当てはまります。購入直後は商品やサービスに対する関心が高く、満足度も記憶に残っています。しかし、時間が経つにつれて、この記憶は薄れていきます。
購入した商品・サービスも時間とともに意識から遠のき、次回の購入につながりにくくなります。60日を過ぎてもF2転換をしない理由は、商品・サービスの質に課題があるわけではなく、単に忘れていることが大半なのです。
この現実を理解することが、F2転換率向上の第一歩です。商品の品質向上にばかり注力するのではなく、顧客の記憶に残るコミュニケーションを心がけることが重要になります。
具体的なアクション
Step 1: 現状把握
まずは自社のF2転換率を正確に把握することが重要です。
- F1(1回目購入)とF2(2回目購入)の人数と比率を把握する
- F1→F2転換率の計算方法:F2顧客数 ÷ F1顧客数 × 100
- 改善前後の比較方法を設定する
多くの企業では、この基本的な数値すら把握していないのが現実です。新規顧客の獲得数や売上総額は把握していても、F2転換率という重要な指標を見落としているケースが多く見られます。
現状把握の際は、以下の点に注意してください:
- 期間を明確にする: 過去1年間、過去6ヶ月など、分析期間を明確に設定する
- 業界平均と比較する: 自社の数値だけでなく、業界平均と比較して相対的な位置を把握する
- セグメント別に分析する: 商品カテゴリ別、顧客属性別など、セグメントごとのF2転換率を把握する
まずは現状を知ることから始めましょう。データに基づいた改善策を立てるためには、正確な現状把握が不可欠です。
Step 2: 適切なタイミングでコミュニケーション
F1に新鮮なうちに(忘れられる前に)コミュニケーションすることが重要です。
- とにかく忘れられる前に接触する
- 30日以内、60日以内の節目を意識する
- 段階的にアプローチする
タイミングの設定は、F2転換率向上において最も重要な要素の一つです。購入直後は顧客の関心が最も高く、商品やサービスに対する満足度も記憶に残っています。このタイミングを逃すと、その後のF2転換は困難になります。
効果的なタイミング設定のポイント:
- 購入後24時間以内: 購入確認とサポート情報の提供
- 購入後1週間: 商品の使用感を聞く、追加のサポートを提供
- 購入後2週間: 関連商品やサービスの提案
- 購入後1ヶ月: リピート購入のタイミングを意識した提案
- 購入後2ヶ月: 最後のチャンスとして、特別なオファーを提供
この段階的なアプローチにより、顧客の記憶に残り続け、自然な流れでF2転換を促すことができます。
まとめ
新規獲得よりF2転換に注力することが、持続的な売上成長の鍵です。忘れられる前に、適切なコミュニケーションを取ることが、リピート顧客獲得の重要な要素です。
F2転換の重要性は、単なる理論ではありません。実際のビジネスにおいて、F2転換率の向上は売上の持続的な成長に直結します。新規顧客の獲得コストが年々上昇する中、既存顧客のリピート率を向上させることは、より効率的で持続可能な成長戦略なのです。
データを活用して継続的に改善し、顧客の記憶に残るコミュニケーションを心がけることで、F2転換率を向上させ、持続的な売上成長を実現できるでしょう。
今すぐ始められるアクション:
- 現状把握: 自社のF2転換率を正確に把握する
- 目標設定: 改善目標を明確に設定する
- 施策設計: 段階的なコミュニケーション戦略を設計する
- 実行: 適切なタイミングでコミュニケーションを開始する
- 改善: データに基づいて継続的に改善する
まずは自社のF2転換率を把握することから始めて、段階的に改善していくことをお勧めします。F2転換率の向上は、一朝一夕で実現できるものではありませんが、継続的な取り組みにより、必ず成果を上げることができます。
リピート顧客の獲得は、企業の持続的な成長にとって不可欠な要素です。F2転換に注力することで、より効率的で持続可能なビジネスモデルを構築できるでしょう。