
リピートで売上を育てる「顧客分析」とは
「顧客分析」という言葉を聞いて、具体的に何をすることか、すぐに思い浮かぶでしょうか。ある人はダッシュボードを眺めることだと言い、ある人はRFM分析のことだと言い、ある人はメルマガを配信することだと答える。同じ言葉なのに、指しているものがみんな違います。
そこでこの記事では、顧客分析という言葉に、一つの定義を置いてみます。顧客分析とは、お客様を真ん中に置いて、もう一度買ってもらうこと、つまりリピートで売上を育てていく営み全体のことです。一回きりの作業ではありません。分けて、知って、試して、変化を見て、また分け直す。これがぐるぐると回り続ける、その営み全体を指します。
新しいお客様を集めることが「点」だとすれば、顧客分析は、すでにいるお客様から売上を育てていく「線」の話です。一度きりの取り組みではなく、回し続けることで効いてくる。まずはこのイメージを持ってください。
売上で見るか、顧客で見るか
多くのお店で行われている分析は、売上を分解して見ることです。売上は、注文数と単価に分解されます。さらに、商品ごと、チャネルごと、月ごとに割っていく。こうして並べた指標は、「今、何がいくら売れたか」をきれいに反映してくれます。
ただ、売上分析には弱点があります。「何が起きたか」は見せてくれるのですが、「なぜそうなったか」と「だから何をすればいいか」は教えてくれません。
たとえば、今月の売上が先月より落ちたとします。売上を分解した指標は、「売上が落ちた」「注文数が減った」というところまでは見せてくれます。でも、その注文数が減った理由が、新しいお客様が来なくなったからなのか、それとも、いつも買ってくれていたお客様がいなくなったからなのか。そこは分かりません。理由が分からなければ、打ち手も決まりません。
ここで、見るものさしを変えます。主語を「売上」から「人」に置き換えるのです。誰が買ったのか。その人にとって何回目の買い物なのか。前と比べて、どのお客様が動いて、どのお客様が止まったのか。同じ売上の数字でも、人を主語にして見直すと、まるで違う景色が見えてきます。新規が減ったのか、常連が離れたのか。落ちた原因がはっきりして、「だったら、このお客様にこう声をかけよう」という次の一手まで出てきます。
売上を分解した指標が「結果を見るもの」だとすれば、顧客起点の見方は「原因と打ち手まで出すもの」です。この違いはとても大きくて、顧客起点で見ると、指標がそのまま行動につながります。「で、結局何をすればいいの」という、分析でいちばん詰まりやすいところが消えるのです。
顧客分析のループを回す
では、顧客を真ん中に置いた分析が、実際にはどう進むのか。ここでは、「初回の購入から30日たっても、まだ2回目を買っていないお客様」を例にします。

1. 顧客を分ける
まず、お客様をひとかたまりのセグメントに切り出します。最初から細かく切る必要はありません。「初回から30日、リピートなし」くらいの粗さで十分です。回していくうちに、ちょうどよい切り方は自然と見えてきます。
2. 状況を知る
セグメントに切り出したら、その人たちの状況を知ります。
ここで見るものは2つあります。ひとつは数字です。最終購入からの日数、買った金額、初回に選んだ商品。もうひとつは行動です。その後サイトに戻ってきているのか、メールは開いているのか、何かを見たけれど買わなかったのか。
数字が「今この人たちがどういう状態か」を教えてくれて、行動が「その背景に何があるか」を教えてくれます。両方をセットで見るのが大事です。
3. ニーズを問う
状況が分かったら、問いを立てます。「この人たちは、何を求めているのだろう」。そして、その答えを仮説として一文で言い切ります。たとえば、「商品自体は気に入ってくれたけれど、もう一度買う理由やきっかけがないまま、なんとなく離れかけている人たち」。きれいに当てる必要はありません。あとで確かめられるように、言葉にして残しておくことが大切です。
4. 施策を試す
仮説が立ったら、それに対する打ち手を選びます。さきほどの仮説なら、「もう一度買う理由をこちらから差し出す」ことになります。次に使えるクーポンを送る、相性のいい商品を勧める、使い方を伝える。
届け方は2通りあります。ひとつは一括での配信で、今このセグメントにいる人へ、メールやLINEでまとめて送ります。もうひとつは自動での配信で、これは次の章でくわしく触れます。
5. 変化を見る
送ったら、結果を見ます。ただ、見るべきは、メールの開封率やクリック率ではありません。それは「ちゃんと届いたか」の確認にすぎません。
本当に見たいのは、このセグメント全体がそのあとどう動いたかです。30日リピートなしだった人たちのうち、何人が2回目を買ったのか。離れていく人の割合は減ったのか。一人ひとりではなく、かたまりとしての動きを見る。ここが、配信して終わりにする普通のやり方と、顧客分析がいちばん違うところです。
これで、ひと回りです。分けて、知って、問うて、試して、変化を見る。この一周が、顧客分析のいちばん小さな単位になります。
このループを回すと、何がいいのか
顧客分析のループの形が見えたところで、これを回せるようになると、お店に何が起きるのかを整理しておきます。いいことは、大きく3つあります。
1. 売上の中身が変わる
新しいお客様を広告で集め続けて売上を立てるやり方は、広告費が止まれば売上も止まります。一方、すでにいるお客様にもう一度買ってもらう売上は、集める費用がほとんどかかりません。ループを回すほど、リピートで積み上がる売上の比率が増えていきます。同じ売上でも、足元のしっかりした売上になっていきます。
2. 分析が打ち手に直結する
さきほどの「で、結局何をすればいいの」が消えます。お客様を真ん中に置くと、分析の出口に必ず「誰に、何をするか」が出てきます。見て終わり、グラフを眺めて終わり、ということがなくなります。
3. 勝ちパターンが資産になる
このやり方は、仮説を立てて、試して、確かめる、というかたちをとっています。だから、当たった打ち手が一つずつ手元に貯まっていきます。一度「この人たちには、これが効く」と分かったことは、消えずに残ります。回せば回すほど、外れが減って、当たりが増えていく。勘で打っていた施策が、再現できる仕組みに変わっていきます。
ループを磨き込み、自動化する
このループは、一周して終わりではありません。むしろ、何度も回すことで本当の力を発揮します。
回していくと、最初は粗かったセグメントが、だんだん細かくなっていきます。「30日リピートなし」とひとくくりにしていた人たちも、よく見ると中身が分かれています。商品は気に入ったけれど次の理由がなかった人と、そもそも商品が合っていなかった人は、別の人たちです。前者にはもう一度のきっかけが効きますが、後者には別の商品を勧めたほうがいい。仮説が当たったか外れたかを見ていくうちに、こうした違いが見えてきて、次に切るセグメントが自然と研ぎ澄まされていきます。
そして、何度も試して「これは効く」と確かめられた打ち手は、自動に切り替える価値が出てきます。たとえば、「初回から30日リピートなしの人に、このメッセージを送ると2回目につながる」と分かったとします。それなら、毎回手で送るのではなく、お客様がそのセグメントに入った瞬間に、つまり条件を満たして顧客タグがついた瞬間に、自動でメッセージが飛ぶようにしておけばいい。一度仕組みにしておけば、あとは新しく条件に当てはまった人へ、同じ打ち手が勝手に届き続けます。
ここで一つ、順番を間違えないようにしたいことがあります。一括での配信は「実験」で、自動化は「勝ちパターンの定着」です。まだ効くかどうか分からないものを、いきなり自動化してはいけません。手で送って、変化を見て、たしかに効くと確かめられたものだけを、自動に格上げする。手で確かめた打ち手だけが、自動にする価値を持ちます。
顧客を真ん中に置くから、ループが回る
ここまで読んでいただくと、最初に置いた「売上起点」と「顧客起点」の違いが、もう一度効いてきます。
このループ、つまり「分ける、知る、試す、変化を見る」が回るのは、主語が「人」だからです。同じお客様を、ずっと同じ人として追いかけられる。だから、ある人に打った手と、そのあとその人がどう動いたかが、一本の線でつながります。試したことと、起きた変化が、結びつくのです。
これを、売上を分解した指標だけでやろうとすると、回りません。売上の数字は、起きたことを後ろからまとめた集計です。そこには「人」がいないので、「この人たちに、こうしよう」という打ち手が出てきません。誰に向かって何をすればいいかが出てこなければ、試すこともできず、試せなければ、変化を見ることもできない。ループの最初のひと押しが、そもそも生まれないのです。
顧客を真ん中に置くというのは、きれいごとではなく、このループを回すための前提です。人を主語にしているからこそ、分けて、試して、変化を見る、という一周が成り立ちます。
まとめ
顧客分析という言葉は、漠然としていて掴みどころがないように見えます。でも、中身はそれほど複雑ではありません。お客様を真ん中に置いて、分けて、知って、問うて、試して、変化を見る。そして、また分け直す。この一周を回し続けること。それが顧客分析です。
一回やって終わりの作業ではなく、回すほど精度が上がり、効いた打ち手が自動になって積み重なっていく。だから、これは作業というより、仕組みに近いものです。道具は買った瞬間がいちばん価値が高くて、あとは目減りしていきます。けれど仕組みは逆で、回せば回すほど価値が上がっていきます。
まずは、お店のお客様をひとかたまり、粗くていいので切り出してみてください。そして、その人たちが今どういう状態で、何を求めていそうかを考えて、ひとつ手を打ってみる。送ったあと、その人たちがどう動いたかを見る。この一周をまずは回してみてください。

